専門医からのメッセージ Vol.2

前立腺肥大症の
薬物療法と手術療法

獨協医科大学病院 排泄機能センター
診療部長・主任教授
山西 友典先生

診察と検査の流れ

診察の際には、その方の症状やそれによって困っておられることをよくお聞きするとともに、ご自身で「IPSS(国際前立腺症状スコアとQOLスコア )」をつけていただきます。このスコアは世界共通のもので、7つの質問に答えていただき、医師はその結果と問診、その他の検査結果を総合して、重症度を判断したり、治療法を選択します。このスコアは治療効果の評価にも使用されます。

また、「直腸診」といって、直腸越しに前立腺に触れ、前立腺のおよその大きさや硬軟を診ます。硬ければ前立腺がんを疑います。「超音波検査」で前立腺の正確な体積を測り、前立腺が膀胱への突出により膀胱の出口を塞いでいないかなどを検査します。また、超音波検査では、排尿後の膀胱に残っている尿の量(残尿量)を測定することもできます。

この他には、尿路の感染症や膀胱がん、尿路結石の有無を確認するための「尿検査」と、前立腺がんがないかどうかを診る「血清PSA検査」(血液検査)も必ず行います。さらに、専門医による検査になりますが、特殊な検査機器を用いて「尿流測定」を行う場合もあります。尿の勢いや量、排尿にかかる時間などがわかります。

検査の結果、尿閉といわれるほとんど尿が出ない状態の方は水腎症などの合併症が疑われ、放置しておくと腎機能障害につながりますので、カテーテルを使った導尿や手術の検討が必要ですが、中等症以下の前立腺肥大症と診断された方は、生活指導とお薬で治療を開始します。

生活指導は患者さんに合わせて様々です

写真:山西 友典先生

特に夜間頻尿を訴える患者さんが多く、この原因には夜間多尿や過活動膀胱の合併も考えられます。この生活指導では、まずは冷えないようにすること、そして水分を摂り過ぎて多尿になっている患者さんには適切な摂取水分量の指導を行います。

場合によっては毎日の尿量と回数を記録する「排尿日誌」をつけていただき、膀胱に十分に尿を貯められるか、多尿、夜間多尿がないかなどをチェックします。過活動膀胱で尿を貯められない患者さんには「膀胱訓練」といって、尿意を感じてもしばらく我慢して膀胱に尿を貯めるトレーニングを行っていただくこともあります。

肥満や便秘の解消、禁煙も前立腺肥大症の症状改善につながります。また、禁酒とまでは申し上げませんが、アルコールによって前立腺がうっ血し、尿が出にくくなることがわかっていますので、なるべく飲酒量を減らすように心がけていただくようにします。

薬による治療を始めていくのが一般的です

お薬の第一選択には、2種類あります。どちらか、または併用することもあります。1つは、α1遮断薬(アドレナリン受容体遮断薬)です。前立腺と膀胱の出口の筋肉を緊張させているα1アドレナリン受容体の働きを妨げて緊張を和らげ、尿を出やすくするとともに、血液の流れをよくして膀胱の刺激をある程度取ります。副作用として、立ちくらみ、鼻づまり、射精障害などが起きることがあります。特に白内障の手術を受ける場合には、虹彩に異変が起きることがあるので、服用していることを眼科医に必ず伝えてください。

もう1つは、PDE5阻害薬(ホスホジエステラーゼ5阻害薬)です。前立腺を緩める作用を持つ一酸化窒素の働きで、尿の出をスムーズにします。このお薬も血液の流れをよくして膀胱の刺激をある程度取ります。副作用には、消化不良、ほてり、逆流性食道炎、頭痛などが挙げられます。ニトログリセリンを使用している患者さんには禁忌(服用不可)です。この2つのお薬は排尿状態をよくするだけでなく、頻尿など、尿を貯める蓄尿症状もある程度は改善します。

以上のお薬で、およそ60%の患者さんに比較的早期に症状の改善がみられます。しかしながら過活動膀胱の症状だけが改善しない場合は、過活動膀胱治療薬(抗コリン薬またはβ3アドレナリン受容体作動薬)を併用します。また、体積が30ccを超える大きな前立腺の場合は、5α還元酵素阻害薬を選択します。このお薬は、男性ホルモンのアンドロゲンの働きを抑制して前立腺を小さくします。即効性はなく、数ヵ月かけて徐々に小さくするため、長期服用の必要があります。副作用として、勃起不全、射精障害、性欲の減退、女性化乳房などが起きる場合があります。

お薬での治療のあらましは以上ですが、漢方薬やノコギリヤシなどの市販品を飲んでいる患者さんも結構おられます。これらには先に述べた医薬品ほどの効果が期待できないものが多いことを知っていただくとともに、もし服用を続けたい場合は、処方薬との調整が必要になる場合もありますので、ぜひ主治医に相談してください。通常は、医療機関で処方されるお薬のみで問題ありません。また、普段服用されているお薬がある患者さんは、必ず主治医に伝えておきましょう。

手術が絶対的に必要な場合とは?

手術の適用には、手術が絶対的に必要な患者さんと、絶対的ではないが必要に応じて手術すべき患者さんと2通りあると考えます。前者は、残尿量が多く、水腎症や尿路結石、頻回の尿路感染などの合併症がある場合です。

手術はどうしても嫌、という患者さんは、カテーテルでの自己導尿を考えることになります。一方、後者は、お薬で治療を続けても症状が改善されず、生活上支障がある、残尿量も増加傾向にある患者さんです。

ご自分にとってどうするのが最適なのか、ご自身でもよく考え、主治医にもご自分の希望を伝え、専門医の立場からのアドバイスをもらってください。

近年は体への負担が少ない手術が
主流になっています

手術にも様々な選択肢があり、大きく3種類に分けられます。いずれも尿道から内視鏡を入れて行い、開腹手術と比べて患者さんの体への負担は大幅に少なくなっています。開腹手術はよほど前立腺が大きい場合以外、今ではほとんど行われません。

まず、手術のゴールドスタンダードとされ歴史があるのが、肥大した前立腺を電気メスで削る「TURP」(経尿道的前立腺切除術=transurethral resection of the prostate)です。組織を削っていくため、ある程度の出血があり、輸血の可能性もあります。「Monopolar TURP」といわれる手術では、削る際に電解質を含まない灌流液を使用するため、低ナトリウム血症を起こしやすくなることから、代わりに灌流液に生理食塩水を使用する「Bipolar TURP」を行うことも増えてきました。

近年はレーザーによる手術も増えています。ホルミウムレーザーを使用して、肥大した前立腺をくり抜く手術が「HoLEP」(ホルミウムレーザー前立腺核出術=holmium laser enucleation of the prostate)です。比較的大きな前立腺にも対応でき、「TURP」と比べて出血が少ないことがメリットですが、術者の熟練を要する手術です。

そして、もう1つのレーザーによる手術が、「PVP」(532nmレーザー光選択的前立腺蒸散術=photoselective vaporization of the prostate)です。グリーンライトといわれるレーザーの特性を利用して、組織を蒸散させます。一番のメリットは出血が少ないことで、抗凝固剤を服用している患者さんでも手術が可能です。但し、前立腺組織を回収できないので、がんの疑いがある場合は事前に前立腺組織の生検を行い、がんがないことを確認する必要があります。

手術を考えている患者さんからしばしば質問を受けるのは、「手術すれば本当に治りますか?」ということです。その答えとして、「下部尿路(膀胱から尿道)の閉塞が強い患者さんにとっては、尿の通り道を確保する手術なので好成績が確保できます。ただ、過活動膀胱など膀胱の収縮に問題がある患者さんにとっては頻尿などの解決が不十分になる場合があります」とお話ししています。手術後の状態について、きちんと把握しておくことも大切かと思います。

患者さんへのメッセージ
尿の出が悪く、お腹が張るなどの症状があれば専門医へ

症状が軽い場合は、お近くの内科など、かかりつけの先生に診てもらっていて問題ないと考えます。でも、尿の出が悪い、そのためお腹が張ってくるなどの症状を自覚されたら腎機能への悪影響も考えられますので、放置せず、早い時期にかかりつけの医師から紹介状をもらい、ぜひ専門医(泌尿器科)を受診していただきたいと思います。

写真:山西 友典先生

山西 友典先生略歴

千葉大学医学部卒業。同大学医学部講師、英国シェフィールド大学客員講師、千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター特別研究員等を経て、2010年より獨協大学医学部教授。2011年より、患者さんの「QOL=生活の質」向上を目的として開設された獨協医科大学病院排泄機能センター診療部長・主任教授。日本泌尿器科学会専門医、指導医、代議員、日本排尿機能学会理事、医学博士。

 

別の専門医メッセージを見る

前立腺肥大症の治療の
最前線に立つ専門医からのメッセージです。